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住吉城概要
住吉城は光明寺背後にある扇山(下地図画像⑧)から小坪寺(地図画像⑥)にかけて連なる丘陵に存在した中世山城です。『鎌倉市史 考古編』(以下市史)によると、丘陵尾根を中心にいくつもの平場・土塁・切岸・堀切などが存在したようです。残念ながら現在は宅地開発によってその城郭・要害としての姿はほぼ失われています。
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①正覚寺 ②住吉社 ③げんじがやと ④海前寺 ⑤神明宮 ⑥小坪寺 ⑦ぼんばたけ ⑧扇山 |
正覚寺(地図画像①)及び背後にある住吉社(地図画像②)では、ひな壇状地形に土塁状が確認できます。地図画像③では「げんじがやと」という字名が残されており、背後には隋道が二本、目の前には旧道が通っていました。城主の邸跡とも云われています。地図画像⑦は「ぼんばたけ」と呼ばれていたエリアで、住吉城の中で最も広い平場が施されています。城跡用語でいうところの主郭にあたる場所と思われます。現在はマンションが建設され跡形もありません。そして地図画像④⑤⑥の海前寺・神明宮・小坪寺が並ぶエリアは、元々の地形を活かしたのか分かりませんが、ひな壇状地形にお寺や住宅が建ち並んでいます。
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住吉城跡 扇山部分 |
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小坪側から見た住吉城跡 |
住吉城の歴史
市史には永正七年(1510)に北条早雲が「住吉の古要害を取立てて城郭にした」とあるように、住吉山は以前から城郭機能を有していたものと考えられています。実際にも古文献でもそう記されているようです。市史では、鎌倉時代末期に登場する三浦時継が時々記録に現れるので、住吉山を城郭にしたとしたらこの時ではないだろうかと推測しています。
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海前寺 五輪塔・宝篋印塔などの無縁仏群 |
争乱の激しさを物語るかのように、正覚寺や海前寺などには無縁仏となった五輪塔や宝篋印塔などの墓塔が多数置かれていました。
扇山
鎌倉の海岸線134号線が通る小坪トンネルの入口部丘陵の頂部に扇山と呼ばれるエリア(上地図画像⑧)があります。
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扇山付近尾根 |
頂部尾根は完全に削平されています。鎌倉によくあるハイキングコース尾根とは雰囲気が異なるように思えるのは住吉城跡という先入観があるからでしょうか。丘陵頂部からは由比ヶ浜が見渡せました。見晴台としてだけでも素敵な場所です。この景色からも物見としての役割があった場所なのかもしれません。
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扇山付近からの展望 由比ヶ浜を見渡せる |
近くに鎌倉遺構にしては大きめな堀切が確認できます。当時からのものでしょうか。この先を行くと扇山の平場に出るはずですが、地図を見る限り、民家がすぐそこにあるようなので、そこから先に移動するのは控えました。
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正覚寺
正覚寺(上地図画像①②)は住吉城跡の大手(表門・玄関)位置だったと考えられています。3フロアからなるひな壇状地形が城郭の名残りを伝えてくるようです。
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正覚寺境内 ひな壇状に施された境内最上階に住吉社が祀られている |
また住吉城には抜穴が作られていたとも考えられています。丘陵部にはその抜穴だった可能性の高い4本の隋道が確認されています。こちらの「くらやみやぐら」「住吉城跡 ~抜穴編」「正覚寺」の記事で紹介しています。
くらやみやぐら |
住吉城跡小坪側
住吉城跡の小坪側には頂部に「ぼんばたけ」(上地図画像⑦)、そしてそこから丘陵下部にかけてひな壇状に地形が造成されているのが現在でも確認できます。これらひな壇状に寺社や民家が建ち並んでいます。どこまでが住吉城の造作なのか、またいつの時代からこうなっていたのかと断定するには難しい部分もありますが、こちらの「住吉城跡 ~小坪寺社編」「住吉城跡 ~旧道編」で詳しく記事にしています。
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上地図画像⑥の小坪寺から眺めた景色 |
小坪坂
住吉城跡は小坪坂を押さえるための城郭・要害であったと市史に記されています。鎌倉七口に数えられる切通し路より歴史が古く、稲村ヶ崎海岸道と共に古東海道であったと考えられています。こちらの「小坪坂」の記事で紹介しています。
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小坪坂 |
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和賀江嶋の辺り |
住吉城跡丘陵部に面する和賀江嶋の辺りを飯島と云います。上地図画像①の正覚寺の前辺りです。飯島といえば有名なのが、頼朝の愛妾で亀の前という女性が住んでいたことでしょうか。その頼朝が飯島の亀の前のもとに通っていたのが寿永元年(1182)、そして和賀江嶋は貞永元年(1232)の開港、地図画像①の正覚寺は仁治元年(1240)創建の悟真寺を前身とします。一方で、地図画像④の海前寺の開創は永和二年(1376)、画像⑥の小坪寺は文明五年(1473)に開創した報身院を前身とします。そして住吉城跡の文献における記録は永正七年(1510)~永正九年(1512)です。小坪・飯島地区だけの話しではありませんが、色んな時代の史跡がこの辺りにいくつも重なっていました。
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探索期間 2012年8月~2013年5月
記事作成 2013年8月4日