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今回の記事では、名越切通(以下名越坂)とまんだら堂やぐら群を中心とするその他遺跡群を総称した名称を名越坂古墳遺跡としました。名越の丘陵部は、やぐら群・切通し・平場・切岸・石切り場跡などなど、鎌倉を象徴する遺構が凝縮されたエクセレントなエリアとなっています。下地図画像はそれら遺跡群のエリアを表したものです。赤の線が名越坂、白の線がハイキングコースとなります。
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Google Map 名越丘陵部 赤の数字①名越坂鎌倉口②名越坂緑ヶ丘口③名越坂亀ヶ岡口 白の数字①まんだら堂②石廟③法性寺④大切岸⑤石切り場跡⑥浅間山南山腹やぐら群⑦ハイランド出入口 |
名越は大々的な葬送地区
名越の丘陵部は大々的な葬送地区であったことがわかっています。まんだら堂やぐら群をはじめとする大々的なやぐら群の他、山腹にある平場からは荼毘跡などが検出されており、名越の丘陵部全体が葬送の場として用いられていたようです。
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まんだら堂やぐら群 |
まんだら堂やぐら群には約150基のやぐらが4段から5段に連なるひな壇状に配列されています。その全体像は圧巻の一言です。また、浅間山南山腹やぐら群には大よそ40基ほどのやぐらが、さらには近接する法性寺の猿畠山やぐら群がハイキングコースに沿うように施されています。ちなみに浅間山南山腹やぐら群は容易に見学できるよう整備はされていません。冬場でも草木に覆われていてちょっと苦労するかもしれません。しかし「手入れ」のあまり入っていない「遺跡感」を楽しみたい方にはもってこいの物件でしょうか。
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浅間山南山腹やぐら群 草木で隠れていますが画像いっぱいにやぐらが軒を連ねています |
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猿畠山やぐら群 |
そしてハイキングコース尾根道上に鎌倉期の石廟が二基あります。他ではなかなか見ないタイプの石塔なので何か「特別感」を感じずにはいられません。やはり名越という葬送地区ならではのものなのでしょうか。
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石廟 |
大切岸
ハイキングコースに沿って2~10mもの絶壁状の崖が大よそ800m以上に渡って残されています。あたかも城壁のようにみえることから鎌倉の防衛に関する城郭遺構と考えられていましたが、その後にこの崖面に石切り作業の跡が確認されたことから、現在ではあたかも城壁のように見えるように削られた石切り場跡と表現するようです。 ・・結局白とも黒とも言わない政治家の物言いみたいですね。というのも専門家でさえ今のところはっきりとした答えを出せないようです。
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大切岸 |
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大切岸 |
石切り場跡
この壮大な城壁のような石切り跡を伝うと、横穴タイプの石切り場跡がひっそりと残されています。私が確認したところ下画像のような跡が3箇所ありました。石切りは鎌倉の主な産業でもありましたが、中でも名越は鎌倉の主な石切り場の一つに数えられています。確かに大切岸は城郭遺構に見えますが、実際にもここが大々的な石切り場跡であったことも確かなようです。
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石切り場跡 一号窟 |
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石切り場跡 三号窟 |
名越の地形
興味深い点として、名越の丘陵一帯が葬送の場としてだけではなく、大切岸や山中にいくつもある平場からも城郭機能を匂わせる性質であることがうかがえる点です。
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ハイキングコース尾根から見えるひな壇状地形 直下には大切岸が施されている |
草むらや藪で覆われているもののハイキングコースのある丘陵全体にいくつも削平、もしくは埋め立てによって造成されたと考えられる平場が存在します。城壁にしか見えない大切岸の件も含めて考えると、城跡としか思えない造りになっています。いつの時代かはわかりませんが、名越山は城郭として整備されたのではないでしょうか。
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平場 窟穴や石塔も確認できる箇所もある |
名越坂は鎌倉と三浦半島を往来する道
名越山は逗子市との境になります。ここ名越丘陵部にある遺跡群に関しては逗子市教育委員会が発掘調査や整備を進めているので、厳密に云うとほぼ逗子市になるようです。鎌倉時代では三浦半島方面からやってくる人達の鎌倉への入口となります。ハイキングコース尾根道からは随所で逗子市、そしてその向こうにある三浦半島の付け根部分まで展望出来ます。
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ハイキングコース尾根道から眺めた逗子方面 その向こうに三浦半島 |
城郭の話しに戻ってしまいますが、北条氏、そして後北条氏と呼ばれる小田原北条氏と、時代は違えど両氏ともに三浦半島を本拠地としてきた三浦一族の存在が常に脅威となっていました。やはりここは市史の著者である赤星先生が言及していた名越山は対三浦一族への防衛施設だったという説が正しいのではないかと思えてきます。
ハイキングコースまでの行程
名越丘陵部のハイキングコース自体はそれほど距離はありません。1kmもないぐらいだと思います。ただ、山なのでアップダウンのある行程からそれ以上に感じるかもしれません。肝心な点はどこからアクセスするかでしょう。長勝寺前から名越坂の鎌倉口に向かいハイランドに出るのが正攻法かと思われますが、衣張山から向かうと鎌倉のハイキングコースをガッツリ堪能することができます。また、報国寺のある宅間谷の巡礼古道から向かうのもいいかもしれません。最後に名越坂を下りて長勝寺・安国論寺・妙法寺・妙本寺と、名越だけに日蓮宗寺社に寄りながら鎌倉中心部に徐々に帰ってくるなどいかがでしょう。
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衣張山からの展望 名越ヶ谷を直下に見下ろし由比ヶ浜を望める 5月撮影 |
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巡礼古道 金剛窟地蔵尊や石切り場跡などが見られる 8月撮影 |
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探索期間 2011年7月~2013年12月
記事作成 2013年12月29日
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