瓜ヶ谷
源氏山から連なるハイキングコース上にある蛇居ヶ谷の大掘割と竺仙梵僊の天柱峰の中間ぐらいに梶原方面に下りて行ける道があります。その道を行くと、瓜ヶ谷やぐら群と呼称される5基の
やぐらがひっそりと佇んでいます。
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源氏山ハイキングコース |
季節やタイミングにもよりますが、ハイキングコースから外れる頼りない踏み跡のような道は、今にも藪で覆われそうで足元もあまり良くありません。ただ、ポジティブにとらえると、逆にこの悪路が「遺跡を見に行く感」を盛り上げてくれます。
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瓜ヶ谷やぐら群 |
やぐらの先に畑として利用されている平場があります。結構広くて、まるで瓜ヶ谷やぐら群を管理していたお寺でもあったかの様相です。本来この谷戸の入口は梶原方面だと思われます。処刑場に商業施設と、往時では賑わいをみせていた化粧坂上からも近く、また化粧坂から梶原・深沢方面に行くルート上に近接しています。現在の感覚からは若干寂しい感じもしますが、往時ではそこそこな立地だったと思われます。
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瓜ヶ谷やぐら群前にある平場 |
観蓮寺屋敷とは
多聞院の記事でも触れましたが、『鎌倉市史 社寺編』に「山ノ内瓜ヶ谷に観蓮寺屋敷という田があり多聞院の持である」とあります。つまり、現在今泉に所在する多聞院は、元々ここ瓜ヶ谷の辺りにあって、当時は観蓮寺と号していたようです。その名残りで、移転後も「観蓮寺屋敷」と称される田んぼが瓜ヶ谷にあったと記されています。ということで、じゃぁ今回やってきたこの瓜ヶ谷やぐら群は多聞院の前身である観蓮寺のやぐらだったのかと話がすんなり繋がればイイのですが、その辺りに触れる資料は今のところ見つけていません。あくまで瓜ヶ谷のどこかに観蓮寺があったとしか、私が見た資料では記していませんでした。
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瓜ヶ谷やぐら群 |
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瓜ヶ谷やぐら群 |
瓜ヶ谷やぐら群
さて、前置きが長くなりましたが、瓜ヶ谷やぐら群です。やぐらは羨道があるタイプなので、鎌倉期のようです。そしてやぐら群中、特に2つが特徴的で、こちら下画像は五輪塔の浮彫が壁一面に施されています。
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五輪塔やぐら右壁 |
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正面 |
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左壁 |
そしてこちら下画像は、瓜ヶ谷やぐら群の中でも最も豪華なもので、壁面に多用な浮彫が施され、なおかつ等身大の地蔵坐像が中央に安置されています。解説のためちょっと番号をふってみました。
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地蔵やぐら
①鳥居 ②矩形龕 ③五輪塔 ④横長龕 ⑤厚肉掘阿弥陀像 ⑥額縁型掘込み ⑦地蔵坐像 |
①の鳥居は壁面に鳥居形を刻み、鳥居の中に石段、奥に社殿らしいものを刻んでいると市史にあります。隣に地蔵立像が彫られていますが、彫りかたが新しいとあったので、後世にて誰かが付け加えたのかもしれません。②の矩形龕は4つ同じ形が並んでいます。下画像はちょっと暗いのでわかりづらいかもしれませんが、下に穴が開いているのが確認できると思います。納骨穴と思われます。また、この4つの矩形納骨穴の上にも浮彫がみられますが、角ばった冠をいただき蓮座上に座する像が刻まれていると市史にあります。
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左にある4つの矩形龕とその上にうっすら立像が彫られている |
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下部に穴がありますよね 納骨穴です |
⑤の阿弥陀像は厚肉堀という表現で市史に記されています。また、④の横長、⑥の額縁など、多用な形状をした龕が刻まれています。形状の違いはそれぞれの故人を見送った遺族の方々のセンスによるものでしょうか。
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横長龕と五輪塔浮彫 |
そして⑦の中央に位置するのは、等身大の地蔵座像で、首、光背上半部、両腕を失っています。風化が激しく細部不詳ですが、
浄光明寺の地蔵坐像と類似点がみられるそうです。
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地蔵坐像背後から |
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五輪塔が浮彫されたお隣のやぐら |
こうして鎌倉にちょくちょく来ていると当たり前のことのように思ってしまいますが、よく考えたら普通にハイキングコースを歩いていてこんな手の凝った中世の遺跡が見れるって凄いことですよね。
鎌倉にいつまでも自然が残されますように。
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探索期間 2011年8月~2014年4月
記事作成 2014年5月4日
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