〈錦ヶ浦〉と〈観音窟〉
錦ヶ浦の魔の渕にある観音窟
熱海にある錦ヶ浦という場所には、観音窟と呼ばれる洞窟があります。元禄十五年(1702)の『豆州熱海地誌』にこの洞窟に関する記述が残されています。以下要約します。
その昔、鈴木顕峰は松平甲牧と共に部下31人を連れてこの洞窟に入りました。まもなくして深い池があったので泳いで渡ると、洞窟の中が広くなり、砂利石が敷かれたような歩きやすい場所に出ました。しかしそのときコウモリの大群が飛び立ってきて、歩けなくなるほど顔や身体に当たってきました。
松平は鈴木に「洞窟がこんなに深くては奥を極めることは難しい。それにそれほど変わったこともないから帰りましょう。」と言って引き返した。しかし外に出てみると、朝早く洞窟に入ったはずが陽は沈んで夕方になっていました。
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※イメージです!画像は観音窟ではありません! |
そんなエクセレントな洞窟があること自体が素敵な話ですが、最後の「朝早く入ったのに出たら陽が沈んでいた」という点も興味深いですよね。単に時間の感覚が麻痺するほど熱中していただけかもしれませんが、とらえようによっては、時間軸の違う空間に入り込んでしまったという、若干SFチックな側面を匂わす話とも受け取れるではありませんか。ともかく、これは行かずにはいられませんね。
基本情報
名称 :錦ヶ浦の観音窟分類 :海蝕洞穴
用途 :不明
住所 :静岡県熱海市熱海1993−250
錦ヶ浦に行ってみた
ということで、錦ヶ浦の観音窟に行ってみようと思います。熱海市街地中心部からそんなに遠くないので歩いていきます。熱海だから絶対に坂があるだろうけど。
少し歩いて昭和町 |
もの凄い勢いで話しかけてくる猫がいたので、かまってみましたが、なぜか絶対にカメラ目線をしてくれない子でした。ほんとツンデレ。
あたにゃん |
しばらく歩き、坂道にさしかかったところにあったのが和田八幡神社。小さな佇まいの神社です。ちなみに熱海には和田という地名があります。北条時政の先祖がその和田に拠していたことから、当時は和田氏を名乗っていたと熱海の地誌にありました。
和田八幡神社 |
この辺り、既に高台となってきているので少しだけ遠景が望めます。いま編集していて気付きましたがコレ、真鶴半島です。
和田八幡神社からの景色 |
坂道を登って行きます。現地では、せっかく熱海まで来ているのにやたらと交通量が多い道だなぁとは思っていましたが、こちらもいま地図を見ていて気付きましたがコレ、国道です。どうりで。
国道135号線沿いをふり返ったところ |
近くにあったバス停に魚見崎とありました。少し歩くと、その名から想像するとおりの景色が広がってきました。
魚見崎からの景色 |
凄い、これ、熱海や伊豆山神社の主要地域が全て見渡せるじゃないですか。もっと早くここに来ればよかった。
魚見崎からの景色 |
いつか乗ってみたい初島高速船 |
絶景を眺めながら進んで行きます。上の画像より標高が高くなっているのがわかりますかね。
熱海市街地 |
国道から外れ岐路を進むと、車一台しか通れない怪しいトンネルがありました。観音窟の話が書かれていた熱海の昔話集に「熱海から二つめのトンネルを出たところを魔の渕と呼びその下に観音窟という洞窟があります。」と記されています。この先にその観音窟があるのでしょう。
怪しいトンネル |
トンネルを出るとホテルニューアカオがあるのですが、とその前に、崖下の方に怪しいトンネルがあります。気になります。なんでしょうね。
崖下のトンネル |
そしてこちらがホテルニューアカオ。敷地内が”すんごい”ことになっています。海蝕洞ですかね、こんなに縦幅があるものを初めて見ました。しかも大迫力。
ホテルニューアカオ |
すんごい海蝕洞 |
ここから初島と大島がよく見えます。凄い絶景!大島はぱっと見た目、噴火しているのかと思いましたが、雲ですねコレ。
大島 |
さて観音窟はどちらでしょう、崖下を見れないものかと思って探していると、ホテルニューアカオの敷地内なんですが、なんと、宿泊者じゃなくとも途中まで入れるようになっています。アカオ太っ腹!
錦ヶ浦 |
何があったらこんなことに・・ |
「穴の中をのぞいてみよう!」 |
その穴をのぞいたところ 下にある洞窟と繋がっているんだって |
そして肝心の観音窟はというと、下画像のコレでした・・。「絶対いけないやつですやん」とガッカリ。さらに現地案内板によれば、「崖上の屏風岩が入口を塞いでしまったため現在確認することはできません」とありました。残念。
第二展望台から見た観音窟 |
ちなみにこの辺り、多賀火山の活動初期の姿をそのままに伝えている貴重なエリアなんだそうです。水冷破砕溶岩といって、火山から噴出した溶岩が高温のまま海水と接触したことによる形跡だとありました。
水冷破砕溶岩 |
水冷破砕溶岩 |
岩が赤とか黄色とか怪しい色してます。ちなみに錦ヶ浦は、切り立った岸壁に打ち寄せる波が砕けて飛び散り、そのしぶきが朝日に照らされて五色に光り輝くことから錦ヶ浦と呼ばれるようになったそうです。
水冷破砕溶岩 |
あと、なんといっても海がきれい。まさにエメラルドグリーン。来年の夏はホテルニューアカオに泊まって、泳いでこの水冷破砕溶岩を間近で確認してみたいと思います。
波食台 |
ということで残念でしたが、観音窟には船をチャーターするか、泳いで行くしかないうえ、そもそも窟の入口が塞がれているとのことでした。横穴マニアもがっかりな結果に終わってしまいましたが、ここ錦ヶ浦の壮大な地形に触れるのも、熱海の歴史を探る大切な手がかりだと思います。
熱海の地名の由来の一つに、魚も棲めない程の熱い海だったことから、当初は熱海(あつうみ)と呼ばれていて、その後に転訛して「あたみ」になったという説があります。
この錦ヶ浦の地形からも、熱海に海底火山のあったことがわかりましたが、海底火山が活発である場合、海の底から漏れる硫黄成分が生物を近づけなくするそうです。地名の由来に若干辻褄が合います。このことからも、意外にも「あつうみ」から転訛したという説も有りかもしれませんね。
水冷破砕溶岩 |
あとがき
ということで、観音窟には入ることができませんでした。期待して見てくれた方には本当に申し訳ありません。ちなみに、なぜ観音窟なのかというと、承応二年に印牧彦一郎という人物が観音像を祀ったことに因みます。またその観音像の開眼供養は、なんと、自分の地元の近くにある池上本門寺の管主・日曜上人が務めたとのことです。魔の渕の由来はわかりません。もしかしたら、景勝地は大抵にして自殺の名所でもあるため、そうした事情に因むのかもしれません。
ホテルニューアカオをどこかで見たことがあるような気がすると思ったら、ブラタモリの熱海編でやっていたのを何となく思い出しました。
なにがなんでも絶対にカメラ目線をしない子 |
おまけ
熱海はなんといっても居心地の良さが魅力でしょうか。この日は宿泊するため前乗りで訪れました。少し時間があるのでぶらついていると、なんと、もう9月も終わりだというのに、熱海名物ブーゲンビリアがまだ咲いていました。温泉寺の門前が素敵な雰囲気になっています。
温泉寺 |
温泉寺 |
そうすると、春にブーケンビリアで埋め尽くされていた糸川はどうなっているのかと思い、立ち寄ってみると、夏前のあの勢いには敵いませんが十分に咲いていました。
ブーケンビリア |
糸川 |
糸川 |
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